2016.01.21
シェリーの酒場から1 ゴブリンでは暮らせない

 シェリーの酒場に集う義勇兵たちに話を聞くこのコーナー。
 第一回目は、おそらく多くの義勇兵が最初に戦う相手であろうゴブリンについて聞いた。

 ダムロー跡地を中心に生息するゴブリン。
 大きくてせいぜい身長140センチほどというこの醜悪な種族は、多くの義勇兵が最初に戦う相手となる。旺盛な繁殖力を誇る連中であって、数をたよりに攻めてこられるとやっかいな相手だが、オルタナ周辺の森や、ダムロー旧市街区を少人数でうろつく「はぐれ」を狙うなら、よほどの人数差がない限り、負けることはないだろう。
 だがシェリーの酒場に集まる義勇兵たちは口を揃えてゴブリンと戦うことの無意味さを語る。理由は単純で、稼ぎがあまりに少ないからだ。ゴブリンたちの身なりはほとんど裸同然。つまり彼らを倒したところで、得られる物は何もない。一応、ゴブリン袋と呼ばれる小さなバッグに光り物を集める習性があるのだが、我々人間種の目からすればガラクタがほとんど。銀貨の1、2枚も入っていれば「ルミアリスに感謝したくなるほどの幸運」で、1シルバーにも満たないことがほとんどだという。とすれば6人のパーティなら一日の稼ぎはひとり20カパー以下ということになる。これでは暮らしていくことすら難しい。

「1日中ダムローではぐれを探し歩いた挙げ句、ようやく見つけたのは六匹の連中でよ。6対6はちょっと危なかったんだけど、稼ぎがゼロってわけにもいかねーだろ。そんでなんとか倒したんだけど、結局、何も売れるもん持ってねーでやんの。命がけで戦って稼ぎゼロだぜ?」

 そう笑って、見習い時代の一幕を話してくれた義勇兵もいたが、当時の彼にとってはもちろん笑い話ではすまされなかっただろう。

「ゴブリン相手で団章を買うための20シルバーを稼ぐとしたら何日かかるって? さあな。寿命が来る前にゲットできれば恩の字じゃねぇの?」

 記者の質問に、そんな冗談で笑い飛ばしてから、そのベテラン義勇兵は続けた。

「ここにいる連中はゴブリンなんかにゃトーゼンさっさと見切りを付けた。確かに危険度は多少上がるが、サイリン鉱山のコボルトだの、稼げる相手はもっと他にいるからな。ゴブリンどもが未だダムローでのさばってられんのも、言ってみりゃ、やつらが何も持ってねーせいだな。それなりに稼げるんなら、もうとっくの昔に狩りつくされて根絶やしにされてるさ。
 これ、記事になるんだよな。ならこれは必ず書いておいてくれ。よう、新兵(ルーキー)ども。悪いことは言わない。ゴブリン相手に苦戦してるってんなら、それはおまえらが義勇兵に向いてないってことだ。悪いことは言わない。義勇兵なんかやめて、何か別の職を探せ。おまえに向いてる仕事は、他にきっとあるはずだからよ」


 そう彼が語ると、シェリーの酒場は賛同の声で満たされた。

本紙記者
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