2016.01.10
義勇兵たちは何処からきたのか?

「こないだ妙な格好の義勇兵が、これで串肉一本もらえますかって、銀貨を差し出してきたんだよ。一本四カパーのうちの串にだよ。カパーとシルバーの違いもわかんねーときた。ほんと、義勇兵には変わり者が多いって話だけど、銀貨も銅貨も知らずにどこで生まれ育ったんだろうな?」
 そう串肉屋台の主人は語った。

 防衛と戦線の維持で手一杯の正規軍にかわり、オルタナの剣の役割をになう義勇兵。一方、彼らはその「変わり者」ぶりでも知られている。いや、いささか失礼な言い方だが、彼らは……あまりに無知なのだ。一シルバーが百カパーであることも知らず、今日まで何処でどうやって生きてきたのだろう?
 そう思った本紙記者は幾人かの義勇兵に声をかけた。
 驚くべきことに、その答えは(本土からこの街にやってきたという者をのぞけば……)ほとんど一様だった。

「何もおぼえていない」

 彼らは口々にそう語った。

“――目覚めよ(アウェイク)。”

 そんな声を聞いた。
 それ以前のことは何も思いだせない。
 何処で何をして暮らしていたのかも。唯一、おぼえていたのは自分の名前だけ、と。
 暗い場所で目覚め、気がついたらオルタナにいた、という。そして、「目覚める」前の自分たちがどこで生まれ、何をしていたのか、誰も、何も、憶えていないらしい……。

 果たしていかなる力によって彼らはオルタナに現れたのか、光明神ルミアリスの導きか、それとも暗黒神スカルヘルの企てか……しかし、ならばと筆者は疑問に思う。彼らが何らかの理由によって「どこか」からこのオルタナに連れてこられたとして、それは具体的に「どこ」なのか。
 筆者は駆け出しの頃、鉱山の落盤事故で頭部に重傷を負い、記憶を失った被害者を取材したことがある。確かに彼は自分の名前も覚えていなかったが、それでも日常的な様々な常識……たとえば百カパーが一シルバーの価値を持つことなど……までは失っていなかった。

 なら義勇兵の場合はどうだろう? 彼らはそんな常識さえも忘れてしまったのだろうか。そうかもしれない。だが、もしかしたら。
 ……彼らは、このオルタナ……いやグリムガルの常識がまるで通用しない、ずっとずっと遙か遠くからやって来たのかもしれない。

 筆者の取材した義勇兵は夜空を見上げてこんなことを言った。「月が赤いのは、どうも変な気がする」と。筆者は思わず笑ってしまったが、その義勇兵の顔は真剣だった。もしそれが冗談でなかったとしたら? 記憶を失う前の彼らは「月が赤くない」場所に住んでいたとしたら?

 義勇兵たちは、もしかしたら、このグリムガルの外、この世界とは別の世界からこの地にやってきたのかもしれない……。
 そのような筆者の想像を、読者諸兄は妄想と笑うだろうか?

(本紙記者)
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